値段を付けるという誠意 — お金の話から逃げない

Blog
見積書を前に計算する手元
2026.07.29
仕組み, トピックス
代表取締役社長 中根 茂雄

先週、お金の話を真っ先にした場面が二つありました。

一つは、お付き合いのあるお客様からの、緊急の電話。もう一つは、新しいプロジェクトの契約の詰めです。

どちらの場面でも、一瞬、迷いました。先にお金の話をするのは、冷たくないだろうか、と。けれども一週間を振り返ってみて、いまは逆だったと思っています。今日はその話を書いてみたいと思います。

保守契約のないお客様から、緊急の電話が来た

スマートフォンを手にするスーツの手元

ある日突然、お付き合いのあるお客様のウェブサイトが、すべて見えなくなりました。サイトだけではありません。独自ドメインのメールも届かない。つまり、連絡を取る手段が電話しか残っていない、という状態です。原因は、サーバー会社側で不正なアクセスが検知され、サービスがまるごと止められたことでした。お客様に落ち度があったわけではありません。

ここで正直に申し上げておくと、私どもはそのお客様のサーバーの保守を請け負っていません。制作のお付き合いはありますが、サーバーの面倒を見る契約はしていない。ですから今回のご相談は、契約の範囲の外から来たものでした。

こういうとき、二つの反応があると思います。ひとつは「契約外ですので」とお断りすること。もうひとつは「困っているのだから」と、無償で駆けつけることです。

私は、そのどちらも選びませんでした。

まず、値決めをした

まず社内で、いくらでお受けするかを決めました。技術者2名を半日押さえる。ほかの案件を止めてでも入る。ですから、通常よりも高い単価で、まずは半日分のお見積りです。そして同時に、こう申し添えることも決めました。

この金額は、復旧を保証するものではありません

値段が付いていないものには、責任も付かない

夜のオフィスで腕時計を確認するビジネスマン

冷たく聞こえるでしょうか。私は、むしろ逆だと思っています。

無償で駆けつけると、必ず無理が出ます。ほかのお客様の予定を削ることになりますし、技術者は本来の仕事に戻れません。そして何より、良かれと思ってやった応急処置が二次被害を招いたとき、誰も責任の置き場が無くなってしまいます。値段が付いていないものには、責任も付かないのです。

金額の提示は、主導権を返すこと

一方で、金額を提示しておけば、お客様は「どこまでお願いするか」を自分で決められます。今日はここまで、明日はどうするか。その判断ができるということは、主導権をお客様にお返しするということでもあります。

社内に向けても、言っておきたいことがあります。今回のような対応は、うちの技術者にとって決して無駄になりません。うまくいかなかったとしても、「何がうまくいかなかったのか」「次に何をすべきか」は必ず残ります。緊急時に呼んでいただけるということは、それだけ信頼をいただいているということです。忙しいのは、お客様が困っていて、私どもが貢献できる時なのだと思います。

人助けを、商品にする

商談で書類に記入するビジネスマン

ただ、ここで止まってはいけないとも思っています。

今回のような対応を「そのつど頑張る人助け」で終わらせている限り、それは手間を売っているだけになってしまいます。緊急時の復旧支援というのは、本当は名前を付けて、値段を付けて、商品として持っておくべきものです。名前の残らない仕事を何度重ねても、会社には何も積み上がりません。

契約外の緊急のご相談は、これからもあると思います。そのときに、慌てて値段を考えるのではなく、あらかじめ用意しておく。今回のことを、そのきっかけにしたいと思っています。

そして同じ週、値段の「もう一つの顔」を考える場面がありました。

区切りを決めることは、お金の日付を決めること

時計とカレンダー

週の終わりに、あるプロジェクトの個別契約について、先方の社長と詰める時間がありました。まとまった規模の仕事を、どういう単位で区切って、どのタイミングで請求していくかという話です。

当初、私は業務の中身で分けることを考えていました。画面の種類で分ける軸と、パソコン・タブレット・スマートフォンというデバイスで分ける軸。この二つを組み合わせれば、報告する内容としてもわかりやすくなると思ったからです。

中身では、きれいに分かれなかった

しかし、話しているうちに、どちらもきれいには分かれないことがわかってきました。工程は並行して進みますし、「ここまで終わった」という線を、あらかじめ引いておくことがそもそも難しい。先方も「今から工数計算をしても無駄ではないか」と言われました。まったくその通りだと思います。

期間で区切る

結局、私たちが選んだのは、期間で区切るという方法でした。フェーズ1、フェーズ2、フェーズ3。それぞれに期日だけを決めて、中身は運用で埋めていく。最後のフェーズには、年末年始をまたぐ可能性を見込んで、少しバッファを持たせました。

これは妥協ではないと思っています。区切りを決めるというのは、実は、お金がいつ入ってくるかを決めることです。仕事の中身が固まっていなくても、キャッシュが動くタイミングは先に決められる。むしろ、中身が固まっていないからこそ、期間で決めておく必要があるのだと思います。

決められないことを決めようとして止まるより、決められることだけ先に決めて動き出す。契約の区切りは、その最たるものでした。

誠意は、金額と日付の形をしている日がある

握手するビジネスマン

誠意という言葉を、私は長いあいだ、気持ちの側の言葉だと思っていました。頭を下げること。駆けつけること。夜を徹すること。

けれども先週の二つの場面で、相手に届いたのは、気持ちではありませんでした。いくらでお受けするかという金額と、いつ区切っていつ請求するかという日付です。金額があるから、お客様は頼む範囲を自分で決められました。日付があるから、双方が安心して走り出せました。

お金の話は、相手を値踏みすることではありません。自分の仕事に、責任の置き場を作ることです。そう考えると、お金の話から逃げないことが、いちばん相手を大切にしているのだと思います。

私どもはいま、緊急対応に名前と値段を付ける準備を始めています。次に緊急の電話が鳴る日までに、間に合わせてまいりたいと思います。

まとめ

  • 値段が付いていないものには、責任も付かない
  • 金額の提示は、主導権を相手に返すこと
  • 人助けは、名前と値段を付けて商品にする
  • 区切りを決めることは、お金の日付を決めること

あわせて読む