相手が動ける速さで、仕事を設計する

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オフィスで語り合うチーム
2026.08.12
仕組み, トピックス
代表取締役社長 中根 茂雄

先週、三つの別々の場面で、私は同じことを考えさせられました。

一つは、大きなプロジェクトのキックオフ。一つは、サイト制作の定例打合せ。もう一つは、自社で育てている商品への、社外の専門家からの助言です。

登場人物も話題も、まるで違います。けれども、三つの場面を貫いていたのは、同じ一つの問いでした。

それで、相手は動けますか

今日は、その一週間の記録を書いてみたいと思います。

返事の速さは、人柄ではなく体制で決まる

オフィスで電話対応するビジネスマン

週の初めに、当社にとって大きなプロジェクトのキックオフがありました。歴史のある団体のシステムを、来年にかけて作っていく仕事です。会議のあと、社内で体制を決めました。

全体を私が見て、実装、ディレクション、見積や契約の窓口。ここまでは、いわば普通の体制図です。ただ、もう一つ決めたことがあります。お客様との窓口を担う者に、バックアップをもう一人置くことにしました。

理由は、能力の不安ではありません。窓口を担う者は今回、専門領域の担当も兼ねています。先方から「専門家として遠慮なく指摘してほしい」と言っていただいた領域です。つまり彼は、この案件の中で、いちばん手が塞がる場所に立つことになります。

体感は、中身ではなく速さで決まる

そういう人が窓口を兼ねると、何が起きるか。お客様からの連絡に、すぐ返せない時間帯が必ず出てきます。中身のある回答は、時間がかかってよいのです。しかし「確認しますので、少しお待ちください」という一言まで止まってしまうと、これは話が別だと思います。

先方からすれば、返事の無い時間は、こちらが動いているのかどうかも分からない時間です。実際には全力で調べていても、それは伝わりません。相手にとっての体感は、中身ではなく速さで決まる部分があるのだと思います。

ですから、二人目を置きました。二人目の役目は、判断することではありません。「受け取りました」「確認します」と、まず返すことです。それだけで、先方から見た当社の姿は変わると思います。

立ち上がりの日に、決めておく

こういうことは、後からは直せません。始まってしばらく経ってから「返事が遅い」と言われて、そこから体制を組み直すのでは遅いのです。立ち上がりの日に決めておくから、意味があります。

もう一つ。二人目を置くことは、担当する本人を守ることでもあると思っています。一人で全部を受け続けると、必ずどこかで無理が出ます。無理が出てから助けに入るのではなく、最初から二人で持つ。そのほうが、結果として品質も保てます。

「2日でお願いします」が、いちばん遅い

予定が書き込まれた手帳とペン

週の半ば、あるお客様のサイト制作の定例で、写真とテキストをいつまでにご提出いただくか、という話になりました。担当からは「2日間で」という案が出ました。工程表から逆算すれば、たしかにそうなります。制作側の理屈としては、まったく正しいのです。

ただ、私はここを1週間に延ばしていただくようお願いしました。

短い締切が、いちばん時間を食う

お客様にとって、素材集めは本業ではありません。写真を探す、社内のどなたかに確認する、文章を書いて上長に見てもらう。この一つひとつに、こちらからは見えない社内の手続きがあります。2日では、その手続きが一巡しないのです。

そうすると、何が起きるか。期日に間に合わないので、いったん「あるもの」で送っていただくことになります。私たちはそれを組み込みます。あとから本命の素材が届いて、差し替える。結局、二度手間になるのです。あるいは、間に合わないという連絡そのものが遅れて、こちらが何日か止まって待つことになります。

守られない2日より、守られる1週間です。締切の価値は、短さではなく、守られることにあるのだと思います(時には、回り道が近道の場合もあります)。

守っていただける締切を引く

大事なのは、期間を甘くすることではないと思っています。むしろ逆で、守っていただける締切を引いて、そのかわり必ず守っていただく。これができると、そこから先の工程が読めるようになります。守られない締切をいくつも並べた工程表は、見た目は詰まっていても、実際には何も決まっていないのと同じです。

同じ打合せで、もう一つ気づいたことがあります。公開の作業を誰がやるのか、更新方法のご説明をいつ行うのか。これらが工程表に入っていませんでした。こういう「最後のほうの、しかし必ず発生する仕事」は、抜けたまま進み、終盤の、誰も手が空いていない時期に現れます。工程表を引く段階で、お客様にお願いする作業と、私たちが最後に行う作業を、先に置いておきたいと思います。

導入を止めるのは、社長ではなく「最初の一人」

現場でタブレットに入力する作業服の人

週の終わりには、いま自社で育てている業務システムについて、社外の専門家に商品の立て付けを見ていただく機会がありました。この一年で機能をずいぶん増やしてきた自負が、私たちにはありました。

その方が最初におっしゃったのは、こういうことでした。

経営者は入れたいと言います。しかし、現場は反発します。いっぱいできるからこそ、分からなくなるのです

導入の成否は、最初の一人が握っている

正直なところ、耳の痛い指摘でした。しかし、続く話のほうが、さらに考えさせられるものでした。導入がうまくいくかどうかは、決裁をする社長でも、旗を振る管理職でもなく、いちばん手前で入力する現場の一人にかかっている、というのです。その方に「面倒だ」と思われた時点で、どれだけ立派な機能があっても、そのシステムは動きません。機能の数と、導入のしやすさは、まったく別のものだったのです。

デモは、いちばん最後に見せる

助言は、提案の順番にまで及びました。先にデモを触らせない。まず面談の時間をいただいて、「導入のときに何が起こりうるか、それをどうケアするか」を説明する。そのうえで、初めて操作をご覧いただく。

売り込みたい気持ちが強いほど、良いところから見せたくなります。しかし相手が本当に知りたいのは、良いところではなく「うちで回るのか」なのだと思います。

以前の私なら、立ち上げの支援は「サービス」であって商品ではない、と考えたかもしれません。しかしいまは、立ち上がるまでの段取りこそが商品の一部だと思っています。順番を示し、最初の一歩を小さくし、つまずきそうな場所に先回りする。そこまで含めて初めて、お客様の現場で動くものになるのです。

相手の時間も、プロジェクトの資源

砂時計とキーボード

三つの場面に、同じ構図がありました。

私どもは、自社の工数は細かく見積もります。誰が、何時間、どの作業に。ところが、相手が動くための時間は、見積もりに入れていませんでした。返事を待つ時間。素材を揃えていただく時間。現場の方が新しい道具に慣れる時間。どれも、プロジェクトの中を確かに流れている時間なのに、です。

「お客様にお願いしているだけだから、うちの工数ではない」と考えた瞬間、そこが最大の遅延要因になります。相手がスムーズに動けるように段取りを整えること。それ自体が、私たちの仕事の一部であり、商品の一部なのだと思います。

それにしても、段取りというのは難しいものですね。長くこの仕事をしていても、締切の引き方ひとつ、体制の組み方ひとつで、いまだに毎週のように気づかされることがあります。おそらく、完成することのない技術なのだと思います。だからこそ、気づいたその日のうちに、一つずつ直してまいります。

まとめ

  • 返事の速さは、人柄ではなく体制で決まる
  • 締切は、相手が動ける速さで引く
  • システム導入を決めるのは、現場の「最初の一人」
  • 相手の時間も、プロジェクトの資源